ホームアマチュア無線機器トップBEACONトップエレクトロニクス立国の源流を探る > No.107 電蓄からデジタルオーディオまで 第9回

エレクトロニクス立国の源流を探る


前の記事  | 

No.107 電蓄からデジタルオーディオまで 第9回

針金を使った磁気録音機「ワイヤーレコーダー」を発明
1877年にエジソンにより蓄音機が発明されてから、ディスクを使った録音・再生技術は急速に進歩していったが、磁気記録技術の発明、進歩も意外と早いものだった。1888年にアメリカのオバリン・スミスが磁気録音の原理を発表した。その10年後の1898年にデンマークのヴォルデマール・ポールセンが針金を使った磁気録音機「ワイヤーレコーダー」を発明している。しかし、その性能は一般に普及するような音質レベルではなく、また、扱いづらいものだった。その後、針金に変わって鋼帯を使ったものも開発されたが、実用化と言う点では、1928年にドイツのフリッツ・フロイマーがプラスチックフィルムに酸化鉄を塗布した磁気テープレコーダーを開発したことが大きい。これが、世界初の磁気テープレコーダーであるが、まだ一般に普及するレベルまでは完成されたものではなかった。

交流バイアス方式の発明がテープレコーダーの実用に貢献
しかし、磁気テープの発明は画期的なものであり、その後、磁気テープは急速に進歩することになる。ドイツの化学メーカーBASF社がアセテート樹脂を使ったテープ素材を開発した。また、磁性体はヒステリシス特性を持っており、録音・再生時に音の歪や雑音の発生原因となる。これを改善するため、あらかじめバイアスをかけておく手法が採用されている。バイアスには、直流バイアスと交流バイアスが有るが、初期の頃は直流バイアス方式が使われていた。しかし、交流バイアスの方が、ダイナミックレンジを広くしたり、歪みや雑音を低減したりするのに優れている。この交流バイアス方式を発明したのが磁気記録機器の研究を専門としていた東北帝大教授で東北電気通信研究所所長だった永井健三氏と、五十嵐悌二氏。1938年に二人は交流バイアス方式を発明、国産初のテープレコーダーの開発に成功した。交流バイアス方式の発明以降、世界中で磁気録音技術の研究が進み、音質が飛躍的に向上し実用化の道が開けていった。

通信技術や真空管などが、第二次世界大戦中に進歩したのと同様に磁気録音技術も戦争中に技術開発に力が入れられたことで進歩した。大戦中は、ラジオ放送を使って自国民向けの宣伝や、敵の戦意を失わせるような放送が盛んに行われた。中でもドイツのヒットラーはラジオ放送を効果的に使ったことで知られる。国民の戦意を鼓舞する演説や音楽を長時間流した。これには、テープレコーダーが活躍した。また、暗号の伝達手段としても使われた。第二次世界大戦におけるドイツの敗戦により、テープレコーダーやロケット技術などの軍事技術がアメリカに渡り、やがて民生機器への応用や、宇宙開発へと結び付いていった。そして米国では、スリーエム社が磁気テープの開発に力を入れ、1946年にアンペックス社が、このテープを使ったテープレコーダーを開発している。

東京通信工業(現ソニー)が国産初のテープレコーダー「G型」発売
大戦後、日本は飛行機などの軍事技術の開発はGHQが禁止したので民生用機器の開発のみとなった。戦時中は日本でも磁気録音の研究がなされていたので基礎的な技術はすでにあった。そして、1950年に東京通信工業(現ソニー)が国産初のテープレコーダー「G型」を発売した。戦後はまだフィルムにする樹脂素材など無く、紙に磁性体を塗布した録音テープを使っていた。6ミリ幅の磁性体を塗布した紙テープをリールに巻いて使うものだった。無論、業務用で重量は45kgもあり、価格は16万円もした。しかし、海外ではすでにアセテートベースの磁気テープが開発されており、性能も良くプラスチックテープ時代の到来を示していた。そこで、東京通信工業ではフィルムメーカーの協力を得て、1952年にプラスティックをベースとした「PW-7P」という磁気テープを発売した。これ以降、同社のテープレコーダーの高音質化が進んで行き業界をリードすることになる。

photo

東京通信工業(現ソニー)の国産初のテープレコーダー「G型」

音楽教育や業務用としてテープレコーダーが普及
テープレコーダーは、高価で大きく、また重量もあったので放送局用として発売されたが、徐々に小型、高性能化と低価格化が進み、学校の音楽教育や業務用としても利用できるようになって行った。また、学校ではNHKの教育放送を録音して置き、授業に使ったり昼食時に校内放送に使ったりした。さらに、NHKが1952年にステレオ放送をはじめたこともテープレコーダー普及に拍車をかけた。

当初、録音テープはリールにテープを巻いたオープンリールが使用された。リールに巻き取られたテープをテープレコーダーに装着し、記録/再生用のヘッドやキャプスタン、ピンチローラーなどのテープ送り機構を経由して巻き取り側のリールに巻き付けて使用する。また、テープを取り外す時はテープをリールに巻き戻してから取り外す方式だった。後に登場するコンパクトカセットと比べると扱いづらいものだった。

東京通信工業のほか、1954年に赤井電機がテープレコーダーの開発に成功、オーディオマニアの間で人気を得た。特に欧米の市場での評価が高かった。オープンリールは、高速・大容量の記録ができるため音質に優れていたほか、音源の頭出しがわかりやすく、テープを直接切って繋ぐなど編集が容易だったのもメリットだった。オープンリールのオーディオテープは、テープ幅1/4インチ、1/2インチ、1インチ、2インチがあるが、1/4インチ=6.35mmのものが一般だった。

photo

ソニーのオープンリール・デッキ(右)

オープンリール・デッキは音質の良さでマニアの憧れに
録音トラックは、2トラックと4トラックがあり、2トラックでは、ステレオ録音の際に左右の音を片方向で行う。また、モノラル録音では往復で行う。一方、4トラックでは、ステレオ録音を往復で行う方式と、4チャンネル録音を片方向で行う方式がある。また、テープの走行スピードは4.75センチ/秒、9.5センチ/秒、19センチ/秒、38センチ/秒、76センチ/秒などがあり、2トラック・38センチ/秒のオープンリール・デッキは音質の良さでマニアの憧れとなった。


参考資料:JAS journal(日本オーディオ協会編)、日本ビクターの60年史、SOUND CREATOR PIONEER、ソニーHP、ソニー歴史資料館、パナソニックHP、JEITA・HP、東芝HP、東芝科学館ほか


前の記事  | 
←記事一覧